「窓のある生活」






今私が何よりも何よりも欲しいのは、窓のある部屋だ。私の部屋には窓がない。廊下に出れば、四季折々の顔を見せてくれる山と木と川の見える窓があるのだが、私の部屋からは外が見えない。

私は自分の好きな空間をイメージしてみるのが好きだ。高い天井。そしてその天井ぎりぎりのところまである窓。窓枠は大きな正方形で、その数はなるべく多く、その色は深い茶色、森の老木の色だ。部屋の真ん中には広い机。ゆったりとしたソファーと不揃いのいくつかの木の椅子。

朝から夕方にかけて、色々な角度から光が入る。窓のすぐ外に建つ大きな木が、光の強さを和らげてくれる。そのおかげで部屋の中が明るくなりすぎずにすむ。雨の日にはガラス窓を雨がつたう。

そんな窓のある生活が、私の夢である。

窓にはたくさんの思い出がある。

高校生の頃、親友の部屋の窓から毎日夕焼けを見ていた事がある。時にはその窓から屋根に出ることもあった。2人とも別々の恋をしていた。片思いだった。言葉を交すこともなく、2人それぞれの想いでただ夕焼けを見ていた。いつも真っ赤な燃えるような夕焼けだった。結局彼女の恋は実り、ずっと後で2人は結婚した。私の恋はクリスマスイブの日に破れた。

ニューヨークにいた頃はフラットと呼ばれるワンルームに住んでいた。部屋自体はとても広かったのだが、その部屋にも窓はひとつしかなくライトをつけなかったら昼間でも薄暗かった。私はベットも机もその窓の近くに運んで、その窓の近くで暮らした。部屋の残りの部分はガランとしてしまって、愛用の自転車だけが寂しそうに置かれていた。

小さな窓だったが、高さだけはあったと思う。薄い水色のレースのカーテンを天井ぎりぎりのところから下げた。風が入るたびに光と一緒に揺れるそのカーテンを見ているだけでも楽しかった。遠くにラガーディア空港の光が見えた。寂しい夜はいつもその光を眺めていた。休日にはその窓にコーヒーカップを置いて、本を読んだり手紙を書いたりした。

あの窓が懐かしくて、今年の夏に訪ねてみた。
10年以上も前の、あの日のままのあの窓がそこにあった。
ただただ嬉しかった。すごく嬉しかった。

帰国してすぐに結婚して、最初に住んだのは、窓のたくさんある小さなマンションだった。窓から東京の高層ビルの明りがたくさん見えた。空気の澄んだ日には、その上に月やたくさんの星が見えた。東京にも素敵な夜空はあると思う。

春の頃、彼がどこかから盗んできてくれた桜の木の枝を、窓際に飾った。夜風にちらちらと花びらが舞った。小さなダイニングルームに、大きなテーブルを置いて狭かったけれど、たくさんの窓から風が入り、吹き抜けていった。寒い日でも窓を開けた。窓際のテーブルに2人で向き合ってとる食事は楽しかった。そこから、素敵な事がどんどん起こるような気がしていた。ふわふわと空に浮かんでいるような、不思議な空間だった。

  窓が欲しい。
  空を見上げる窓が欲しい。
  風の走り抜ける窓が欲しい。

近いうちに、この夢はなんとしてでも叶えなくてはならないと思う。素敵な事が、そこからどんどん生まれてくるような、そこから始まるような、そんな窓のある生活をはじめたい。

はじめなくちゃ。きっとはじめるよ。ぜったいはじめるよ。







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