ジャンの真下の部屋に移る事になった私は、まずジェフに言い訳をしなくてはならなかった。「ごめんね、ジェフ、あなたとあなたのゴキ君達には悪いけど・・・」なんて事言える筈もないので管理人としての働きぶりが認められて少し広い部屋をもらえる事になった、とだけ伝えて荷物を移動した。(大嘘つき管理人) 新しい部屋は3畳と4畳半であわせて7畳半。それに小さなキッチン付きの、ワールドハウスでは一番広い部屋だった。4畳半の一番日当たりの良い場所にベットを置いた。窓は隣の家の大きな庭に面していたのでよく手入れされたその庭の緑をひとりじめして楽しむ事ができた。そしてその狭い空間の中で、その窓際というのが、洗濯ババァのアパートから一番遠かったのだ。(とはいっても1メートルくらいしか違わないけど・・・)カンカンカンという音が少しでも遠ざかるようにと無駄な抵抗をしたのだった。 私は自分の部屋を飾るのがとても好きなので、小さなその空間を上手に飾って快適な私だけの城ができあがった。普段は部屋のドアは開けておいて外人達が自由に訪ねてこれるようにしておいたが、外出の時と夜眠る時、それからボーイフレンド(後の私の旦那様)が遊びにきた特はドアを閉めた。ハウスにいる、というのがわかっていて、昼間から私の部屋のドアがしまっていると、ジャンがすぐ怪しんでノックしてくる。 へへへ・・ノックしたって開けないわよ〜。いつでも「カモ〜ン!」のジャンとは違うの。 ある秋の日の事だ。ベットの上でぽかぽかとした秋の日差しを楽しんでいる時だった。なんとなく一人の時間を誰かに邪魔されたくなくて部屋のドアを閉めていた時だった。外人達にとっては、ドアが閉まる=部屋で彼といちゃいちゃしている、って事だったらしい。ノックをすればちゃんと返事をするつもりだったのだが、もうすっかり頭の中で想像を固めて遠慮してしまったジャンだった。 ベットで寝転がって外を見ていると空から何やら変なものが降りてくる。細いロープの先には小さな籐の篭が結びつけられていた。 ???? その篭が窓ガラスをガンガンと容赦なく叩く。 なんだ?なんだ?と窓を開けて外をみると、上の部屋の窓からジャンのニヤニヤした顔が見えた。篭の中にはメモが1枚。 「How is it?」 な、な、なんだ〜? このitってのは何?と、改めてジャンを見上げてみる。 フフフ..と笑うジャン。 「何やってるの〜?」と聞いてみると 「最近ひ〜さまの部屋しまってる事多いです。彼と忙しそうデス。これからはこれでメッセージ届ケルヨ」 まぁまぁ、よく考える事。 でも、そっか〜。最近自分のプライバシーがあまりにもオープンになってきている事に疲れてきて、ついつい部屋に閉じこもる事が多くなっていたなぁ。いけない、いけない。ジャンだけでなく、他の外人達も寂しかったのかもしれない。私は、初心に戻ってまた管理人として勤めを果たそう!なんて深く反省し次の日からはまたドアを開けるようにした。 それなのにジャンったら、その自作エレベーターがとても気に入ったらしく、何でもかんでもその篭で用を足そうとする。あれを取ってくれ、だの、これを翻訳してくれ、だの、まぁ忙しい。ジャンはいいわよね〜。用がある時にその篭でガンガンって私を呼びつければいいのだもの。でも私からはジャンを呼ぶ事はできないから、雨の日も風の日も外付けの階段をカンカンカンとあがって一番奥の部屋までご希望のものを届けに行かなくちゃいけないんだもの。。。それにその篭は時々転倒したり、ロープがはずれたりして中身が隣の庭にどさって落ちちゃってさ。「ひ〜さま、悪いねぇ〜」のジャンの声に、ついついNO!って言えなくて隣のお宅まで頭をぺこぺこ下げて拾いにいったのも、この心優しい管理人だったわよね〜。 でも、ジャン。あの頃ってすごく楽しかったね。今も幸せに暮らしているといいな、と思う。あの医大生と結婚して、お医者様のワイフとなったところまでは知っているんだけど。その後音信が途絶えてしまってつくづく寂しい元管理人だよ。 (つづく...) |