次の日から私はエジプトに関する資料集めを始めた。 エジプトの気候、食生活、文化、通貨等の他にも大学周辺の地図を探して、カイロでの自分の生活を思い浮かべた。 寂しいだろうか、でも楽しそうだ。うん。すごく面白そう! 宮崎の両親にもエジプト行きについて話をした。両親はアメリカくらいならともかく、何故エジプトなの?と呆れていた。そりゃそうよね。大事な一人娘が一人でエジプトに行くなんて、今思えば私が両親の立場だったらやはり焦ったと思う。それでも、もう私はエジプトに行くしかないのだわ、としかと心に決めた私の心にはもう他の事なんて、そして誰の言葉も入ってこなかった。 アランの日本語のレッスンはその後も順調に進んでいた。授業が終わると、短い時間の中で私達はエジプト行きの手続きのための 書類を書いたり、向こうにいってからの住宅の話をしたりした。ガレージつきの大きな住宅や車まで準備された、夢のような生活はもう目の前まで来ていた。 何枚もの英語の書類を書き、推薦状等を取り寄せて準備はちゃくちゃくと進んでいた。 ところがある日、日本語のレッスンが終わり、いつものように部屋を出ていこうとしたその時、アランが私を見つめていった。ゆっくりとした日本語だった。 「ひろみさん、僕はあなたが好きです」 そしてアランは私の手を握った。 げげっ!アランは確かに紳士だし、悪い人ではない。でも私にはそんな気は全然なかったのだ。アランは続けた。 「ひろみさん。僕と結婚してください。エジプトに行ったら一緒に暮らしましょう。」 え〜〜〜?それって、何?この日本語教師の話には、もれなくアランとの結婚、ってのがついてくるって訳? そんな事聞いてないぞ〜! アランは手を離してくれない。私の返事をじ〜っと待っている。 「アランごめん。あなたはとても良い人だけど結婚は出来ないです。」 アランは寂しそうな顔だった。でも本当の事だもの。愛のない結婚なんて出来ないわ〜。 なんだかがっかりしてしまって、それ以上言葉も見つからず、もう一度だけ「ごめんね」と言い残して私は部屋を出ようとした。でもアランは手を離してくれない。 「ひろみさん。だったら、せめて、日本にいる間だけでも・・・」 え?何?何だ何だ?いる間だけどうしろと言うの??? もうその後はアランの手を振払って、もう後ろを振り帰らず、ひたすら走って走ってホテルから出た。 エジプト行きの夢も、その日の分のアルバイト料も一瞬にして消えてしまった悲しい悲しい管理人だった。 |